勝手にハニーキス
「とりあえずさ、連絡先……聞いてもいいかな?」
「……は、はいっ!!」
慌てて取り出したピンクの携帯。それを持つ手すら震えてしまって……
「俺、そんなに怖い?」
覗き込まれるように見つめられて、センパイの黒くて綺麗な前髪が顔にかかりそうだったから……慌てて首をぶんぶんと横に振る。
これでは、好きだと言っているみたいなもんだ。
そんな静奈を楽しそうに観察しながら
「それにしても、今日ここに来て良かった。あ、ここ俺のいつもの休憩場所なの」
「そうなんですか……スミマセン、勝手に」
視線から逃れるように、けれど携帯同士はまるで恋人のようにぴったりと合わさりメアドが交換される。
「静奈ちゃんが来てくれるならいつでも大歓迎だよ。じゃ、連絡するから」
頭をそっと撫でるとそう言い残し、よく冷えたスポーツドリンクを抱えた明日香とすれ違いながら沼田は去って行く。
「あれ? 静奈?? ……今のって!!」
苦しいような、くすぐったいような。不思議な感情に捉えられ、放心状態の静奈が今起きた事を話せるようになったのは、それからしばらく経ってからだった。
涙はもう、零れなかった。