勝手にハニーキス
「私……行くよ」
「行くって?」
「本当は……拓斗の事信じなかった訳じゃないの」
「不安だったけど、また……悲しい想いをするのが怖かった」
静奈が言った”また”が自分との事を指してる事には気付かないまま。
それでも拓斗は「分かったよ」と呟き、心を決めた静奈の背中をもう一度反対方向へと向ける。
「私……ちゃんと見るから」
二人が消えていった路地。見失わないように早足で……心をいっぱいにする恐怖心から逃れるように。
仲良さげに談笑しながら交差点を渡り、何度か狭い道を曲がり……小さな坂を上った所で二人の姿は消える。
少しもためらう事無く、自然に飲み込まれていったのは……茶色いレンガ造りのラブホテルだった。