【完】約束=願い事
意味合いは違うけど、
異性に好意を持つのは2度目だった。
1度目の対象は父。
小学生になるかならないかの、
恋とは違う、まだ幼く慕う気持ち。
『大きくなったらお父さんのオヨメさんになるの』
ずっと一緒に居てほしい気持ちから、
その頃よく父にそう言っていた。
その言葉が、
父が狂っていく引き金とは知らずに……
―――1度だけ聞かされた、
母の想い出話が甦る。
母は、わたしが3歳になったばかりの頃に亡くなった。
幼すぎて、母本人の記憶は全くないけど、
優しい笑顔の、
線が細い人だと写真を見て思った。
わたしが譲り受けた、
真っ黒な、
だけど決して硬くない、柔らかくて艶やかな髪を、
風の祝福を受けるみたいになびかせていたのが印象的だった。
良家のお嬢さんだったそうで、
結婚は、ほぼ駈け落ちに近かったらしい。
ふたりがどういう経緯で知り合ったのか、それは知らないけど。
母は父を愛していた。
父もそれ以上に母を愛していたという。