【完】約束=願い事

とっさにコートを脱いで彼を押し倒す。

顔と服を隠して跨がった。


「オラァ出てこい崇佑(ソウスケ)!」


「えっ?!きゃーっ?!」

わたしは押し倒して彼に近づけた顔を上げて、
大袈裟に叫んでみせた。

おまけに掴んだ砂をかけてみる。



「え?あ。や。悪ぃ…」

まさかの展開に
覗いた少年は顔を赤くしてあっけなく引き下がった。


息を止めるわたし。


「おい、崇佑居たかー?」

「いねーよ
盛ったカップル見ちまったじゃん」

「どこ行きやがったアイツ」


不満そうな声を耳にして
固まる数十秒。



遠ざかる声。







「はぁー
行ったみたい」

コートを取って立ち上がったわたしはやっと落ち着いて手を差し伸べた。


さっきの少年より顔を赤くした彼が
まだ固まったままわたしを見上げる。


「何してんの。
ほら立って」

のろのろと立ち上がる彼。


ベンチまで引っ張ると、
濡らしたタオルを当てて切れた口元を冷やしてあげる。

そのままタオルを渡した。


「あげるわタオル。冷やして。
で、時間無いからわたし帰るから」


時計を見ると23時30分。

そろそろ帰らなきゃ間に合わない。


「せっかく助けたんだから捕まらないでね」


「あ。待って!」


「何?」


「君の名前は?」


「夢瞳よ。
じゃね。急ぐから」


文字通りわたしは急いで帰った。






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