僕と平安貴族の五日間
小田急線での1時間に及ぶ長旅は
案外、快適なものだった。
殿は疲れがまだ取れないらしく、
僕の華奢な肩によりかかって眠っていた。
眠っている姿は天使である。
いや、マキだけど。
僕がうそ偽りだけでできた殿の話をすると、
母さんは目に涙をためて、
「よく、ここまで来たわね、
マキちゃん。安心しなさいよ。」
と、なんの疑いもなく殿を迎え入れた。
「タケルの母君、かたじけない。」
と、殿は頭を下げた。
姉貴は帰ってきていないようだ。
僕は溜息をついて居間に座った。
「かわいそうね、マキちゃん。
今、マキちゃんお風呂に入れたから、
その間に、夕飯の支度をするわ。
タケちゃんも食べていきなさいよ。」
僕はおとなしく母さんに従った。
うちの風呂はかなり古く、歴史があるのもだから、
殿も使えるだろう、と安易に頭の隅で考えていた。
僕も、平安貴族との長旅、という慣れない思いをしたせいか。
居間で眠り込んでしまった。