僕と平安貴族の五日間


「殿!!


これはコトさんじゃなくて、レイカでしょ!!」


 レイカがマキの豹変ぶりにショックを受けている内に、


 僕は、殿を無理やり引っ張って、


 地下鉄の入口へ引っ張った。


「何をするのだ!!


あれはまさしくコトだったではないか!!」


 ギャーギャー騒ぐ、殿。


 力は所詮マキだから、耐えられるけど、


 僕はこの電車内での視線に耐えられない。


 喧嘩中のカップルに見られているのだろうか。


「あれは、現代の人!!


レイカっていう僕の友達!!」


 それに、レイカにはハヤトという彼氏がいる。


「しかし、コトにそっくりなのだ。」


 殿が寂しそうに抵抗をやめて、座席にもたれかかった。


 意味がわからない。


 マキが殿、雪冬で、


 レイカが琴菊姫?


 意味が…


 アレ?


 殿、泣いてる?


 あーもう!!


 これだから平安貴族は!!


 何かあるとすぐに泣く!!


 これじゃ、僕が痴情のもつれで泣かしたみたいじゃないか!!


「殿、ほら、泣かないで。


もう、降りる駅だから。」


 殿はうつむいたまますすり泣いている。


「我が月夜…


雲居の影で


満ちたるかは…」


 なーに、和歌なんて吟じちゃってるんですか!!


 これじゃ、泣かせた彼女がいきなりポエム!


 みたいに乗客勘違いしちゃってるじゃんか!!


 しかも、う、うまい!!


 さすが、平安のプレイボーイ。


 “私の愛しい月よ


 思わぬ雲のせいで、


 見えなくなってしまいました。


 私とあなたが会える日はくるのでしょうか”


 だと!?




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