僕と平安貴族の五日間

「え、殿?ちょ、何?」


 僕は立ちあがる殿の浴衣のすそをつかもうとした。


「おなごよ。」


 と、殿もテノールでいい声だ…。


 また女の子が殿を見て顔を赤くする。


「おなごというものは、


男子に好かれるのが幸せじゃ。」


 殿はへべれけ天使をみた。


「お主、好いたおなごがこうして、


生きておるのだ。


男子として力づくで物にしてみせようという


心意気はないのか?」


 殿ぉぉ!!


 力づくだなんて!!


 犯罪だよ!!


「ッー…。


アンタの、言うとおりだ。」


 金剛力士像は立ちあがった。


 何!?


 今度は、何!?


「お、お前は、古き良き男の中の男だぁ!!」


 確かに、殿は平安生まれのだいぶ古い男ですけど!!


「うむ!」


 そして、二人は固く抱き合った。


 もう、天使の面影がない金剛力士像が、


 オスの目をしてみゆきちゃんをみおろす。


「て、てつちゃん…」


 みゆきも熱でかすれたような声をだした。


 なんか、うまくいきそうだ。


 僕らがそっと個室を後にしたら、


「みゆきぃぃ!!」


 あいかわらず天使の声、


 ウィーン少年合唱団に入れそうだ。


「てつちゃぁん!!」


 二人は熱く抱擁したのだろう。


 しかし、その瞬間、


「おえ~~」


 べちゃべちゃって汚物ちっくな音が…


「きゃー!!」


 みゆきの悲鳴。


「おえぇぇ~~」


 金剛力士像は戻してしまったらしい。


 僕は面倒事に巻き込まれるのはゴメンだ、と、


 殿の背中をおして入口にむかった。


 伝票がおきっぱなしだ。


 もう、いい。


 てつちゃんに支払わせてしまおう!!


 僕らは外にでた。


 その瞬間、いくつものライトに照らされて、


 僕と殿は目もとを腕でおおった。


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