僕と平安貴族の五日間
右に、左に、一体何度、振り落とされそうになったことか。
僕は風圧に首の力が負け、
完全に顎を突き出して後ろを向いてしまっていた。
そのためか、
追ってくるバイクや、パトカーの動きが
よく見えたものだ。
パトカーによって暴走族は一網打尽にされ、
殿は薄暗い横道で
バイクと止めた。
ブゥン
僕はバイクから降りたが、まだフラフラする。
「殿、平気?」
殿は軽く伸びをして、
まだエンジンが熱いバイクに触れて
こう言った。
「馬や、女より簡単だ。」
うそぉぉぉぉ!!
どうやら、殿は平安では
だいぶ、ブイブイ言わせていたらしい。
僕があたふたとしていると、
殿はさっそく歩きだしていた。
「タケル、帰ろう。」
その時、僕は一気に全てを思い出した。
殿が平安時代からやってきたわけを、
琴菊姫のことを。
「うん。帰ろう、殿。」
僕は殿に向かって足を踏み出した。
僕は、殿を助けてあげることができるのだろうか。
このとき、殿も同じように琴菊姫を思い出して、
僕より先に歩きながら
またちょっと泣いていたのを僕は知らなかった。