僕と平安貴族の五日間

「あ、わざわざ悪いな。


入って、こっち、スリッパ。」


 レイカの部屋の玄関でこう僕らを迎えるハヤト。


 否が応でも二人の絆が見えてしまう。


 僕は殿の方もハヤトの方もあまり見ないようにして、


 部屋へと向かった。


 レイカの部屋には何度か来たことがある。


 その時も、こうして四人で鍋をしたりしたものだ。


 でも、今は違う。


「あれ、レイカ寝てるのかな。」


 ハヤトはリビングのカップを見て言った。


 レイカのピンクのマグカップの中はまだ湯気がでている。


「レイカ?」


 ハヤトが寝室へと入って行った。


 ふと、殿を見ると、


 殿はハヤトが消えて行ったドアを睨んでいた。


 僕は切なくて胸がもやもやした。


「レイカ、タケルとマキがきたよ。」


 ハヤトに背中を押され、


 昨日とは別人のやつれたレイカが姿を表した。


「レイカ!大丈夫?」


 僕は不安になって声をかけながら駆け寄った。


 しかし、レイカの瞳は虚空を見つめたまま


 一筋の涙をながす。


「ゅ…き…ぃ…さ……ま……」


 レイカのかすれるような小さな声が聞こえた。


「コト…」


 殿が思わずレイカに近づこうとする。


「キャーーーー!!」


 殿とレイカの距離が0になりそうな瞬間、


 レイカが悲鳴をあげた。


 まるで決壊したダムのように


 あふれ出る何かに耐えられない、


 そんな悲鳴だった。
< 38 / 81 >

この作品をシェア

pagetop