僕と平安貴族の五日間
殿は手を引っ込め、レイカを見つめている。
もどかしいだろう。
レイカはまた一筋の悲鳴をあげてその場に
糸の切れた操り人形のように倒れた。
そんなレイカをいつくしむように抱きあげる、
力強いハヤトの腕。
今、殿はマキの姿だから、
なおさら堪えるだろう。
「ほんと、ごめんな。
なんかまだレイカの調子悪くて。」
そういいながらレイカをソファに寝かせるハヤトの目には
クマができていた。
「いや、俺らも無理に来ちゃったから…」
僕は手持無沙汰になり、
回りを見渡した。
「コト…」
殿、マキの声だ。
ソファに横たわるレイカの横に、
殿がしゃがみこむ。
すると、急に気を失っているはずのレイカの口が動いた。
驚くほどはっきりした声で言葉を発する。
「雪冬殿、
なりません。
一刻もはやく、コトの元から
離れるのです。
早く、御世に戻られるのです。」
レイカの目はつむったままだ。
「コト!!
わかるのか??
私がわか」
「いいかげんにしろよ!!」
興奮してレイカの手を握って大きな声を出す殿に、
ハヤトがいきなり怒鳴った。