僕と平安貴族の五日間
浅岡が入口に一番近い所に座る。
僕は浅岡と殿に挟まれる形になった。
浅岡もなかなかの美丈夫だから、かなり、不利だ。
しかし、殿の横に座る4人目の石田 愛甲(あいこう)は、
いわゆる女顔の優男で、僕はどのみちバラに囲まれた枯れたかすみ草なのである。
「はーい。今日の幹事させてもらってます。
浅岡 春樹でーす!とことん盛り上げてくんで、覚悟しといてくださーい!」
浅岡は文字の羅列的には大したことを言っていないが、
あふれ出てくる人間的魅力に引き付けられる。
次は、僕である。
殿も紹介もすませてしまおう。
「ども、急きょ参加させてもらいました。
浅岡と同じサークルのタケルです。
で、こっちは、僕の方の友達で、
真木 ユキくんです。」
合コンの自己紹介は嫌いだ。
僕には向いてない。
そう思いながら、僕は殿を手でジャーンというふうに紹介した。
「うむ。只今、紹介に預かった。
今宵の宴は楽しむがよいぞ。」
殿はまさかのいつも通りのリアクション。
臨機応変さは求めていないけれども!!
「殿ー!もっと親しげに言ってもいいでしょ!!」
と、僕がいつも通りに口に出してしまうと、
女子たちは一斉に吐息とともに、
「「「「殿ぉぉ…」」」」
と、つぶやいた。
え、まさかのハッピー・アイスクリーム。
コホン、と咳払いして愛甲君。
普段なら、一躍アイドルなのに、
今夜は殿に先制を打たれ、焦り気味である。
自分のチャームポイントをよく理解した笑顔で、
「こんばんは、僕は愛甲です。
字は愛するの愛、に。甲羅の甲、です。」
このセリフ、何度聞いただろう。
いつもなら、キャー!字もカッコイイー!とか、
聞こえるはずなのに、今日は至って静かだった。
この静けさは文字通り、嵐の前の静けさだった。