僕と平安貴族の五日間
嵐直撃
お通しを口に運ぼうとした殿が、
箸を止めた。
「どうしたの?殿?」
僕が殿をみると、
「ん、これが邪魔なのだ。」
と、殿が肩をいからせた。
どうやら、殿は肩下まで伸びたサラサラの髪がお食事に邪魔だ、
と、訴えているのだ。
「えーっと、ヘアゴム・・・。」
僕が持ってるわけないじゃないか。
「わたし、持ってるよ?」
その声はマドンナ!
「ほう、じゃ、頼むぞ。」
と、殿は当然のように髪をシャンプーのCMのようになびかせて、
マドンナにわざわざこちらに来て、
結べ、というのだ。
「ええええ????」
僕がびっくりしている間に、
マドンナはピンクの可愛いシュシュを持って、
頬もピンクに染めながら、
おずおずと殿の背中に近づいていく。
もはや、マドンナ唯ちゃんは、殿の女房だ。
ちなみに、女房とは貴族の身の回りの世話をする女のことである。
「殿、くん?」
マドンナは殿の髪の毛をかき束ねながら、話しかける。
「なんだ?」
殿は、どんな時でも殿さまである。
「ふふふふ。なんでもな~い。
ほら、できたよ。」
マドンナは殿の髪を結いあげ、
最強の笑顔を殿の肩越しに向けた。
「ほう、たすかった。」
殿も笑顔を浮かべ、何もなかったように
お通しに箸をつける。
僕も、髪を伸ばそうか、と本気で考えてしまった。