僕と平安貴族の五日間
マキはフンと鼻を鳴らして言い放った。
「なんだ、吉次、
私の生まれた年まで忘れたのか?
寛仁元年、大伯父の道長殿の威子殿が
皇后になる前年ではないか。」
合っている。
僕は生唾を飲み込んだ。
おおよそ、千年前だ。
でも、これはマキが書いたものだ。
このくらい、覚えていても、不思議ではない。
マキがパソコンを物珍しそうにのぞき込む。
「おお、あやしい文字、が写っておる。」
古典単語で『あやしい』とは、
身分が低くて、不気味、とかいう意味だ。
しかし、マキは道長のことを大伯父と言った。
そして、たいそう親しげに言っている。
たしか、雪冬は道長に…
「これはなんじゃ?」
マキは演技をしているのか。
だとしたら、オスカーものだ。
「おい、これはなんじゃ?」
僕はかぶりをふって言った。
「これ?パソコンでしょ。
マキももってたじゃん。」
それでも、僕は認めたくない。
マキが雪冬だなんて。
雪冬がここにいる、だなんて。
だとしたら、マキ、君はどこにいるんだ?