僕と平安貴族の五日間
そのお坊さんに案内された広間は畳の間で簡素ながらなにか強い意志みたいなものを感じる部屋だった。
そのただっぴろい畳の上で殿と少し待つようにいわれた。
「こちらをご覧ください。」
お坊さんが持ってきた大きな桐の箱。
丁寧な手つきでふたをはずし、中からまた箱を取り出した。
その中から古めかしい巻物を取り出した。
「私の祖先の名前がこれに書き込まれています。
先ほど、その、あなたがおっしゃった崔兼、とは確かに私の祖先なのです。」
そのお坊さんは巻物をだいぶぐるぐるぐるぐるといていく。
「あの、あの、すみません、一体どのくらい先のぼるんですか?」
僭越ながら僕がおそるおそる話しかけると、
そのお坊さんは優しく僕に言ってくれた。
「私の名前は孔明(コウメイ)といいます。」
孔明さんが指したところはまだ黒々とした墨で書かれていた。
「ここから、そうですね、一千年ほどさかのぼることになります。
ここです。ここに崔兼、と。」
孔明さんは殿をみた。
殿はだんまりを決め込んでいる。
「殿、なんか、わかる?」
殿はその巻物をじっと見つめた。
「なに、崔兼の跡がなぜ?なぜ來山(らいざん)なのだ?
たしかちゃんと跡継ぎがいたはずだ。」
殿は崔兼の名前の横を見た。
「ええ、確かにそのような記述はあります。
しかし、その跡継ぎは不治の病で夭折してしまったそうなのです。」
孔明さんは箱の中からほかの書類をとりだした。
「これを見てください。」
僕と殿は緊張した。