僕と平安貴族の五日間



 あれから、僕は雪冬の年を聞いて、


 (彼は19だった。ぼくと同い年だ。)


 それまでに起こった歴史的事実を事細かに


 聞いて行った。


 いくら頭のいいマキでも知らないようなことも


 知っていた。


 結果、僕はマキを雪冬と暫定的に


 認識せざるを得なくなったのだ。






「マキ、じゃなくて、雪冬。」


「なんだ?


やっぱり、その名をお前に呼ばれるのはいささか


抵抗があるな。


お前、本当に吉次ではないのだな?」


 僕は吉次ではない。


 それもさっき、暗くなるまで


 芝生の上で熱く議論していたのだ。


「しかし、そっくりだ。」


「わかったよ。殿。」


 僕がため息交じりに言うと、


 マキ…じゃなくて雪冬は恥ずかしそうな顔をした。


「まだ、兄上たちがいるのに…」


 雪冬はごにょごにょ言っていたけど、


 僕はどうでもよかった。


「殿!もちろん、マキのマンションわかんないよね?」


「マンションとはなんだ?」


 僕は頭を抱えた。


 ついさっき、大学のトイレに連れて行った時も


 大変だったのだ。


 体はマキだから、男子トイレには入れない。


 だから、もう誰もいなかったのをいいことに、


 僕は、車いすトイレに雪冬を連れ込み、


 使い方を事細かに説明したのだ。


 これが予想以上に疲れる作業だ。


 こんな時、大学の最新設備を恨んでしまう。


< 9 / 81 >

この作品をシェア

pagetop