ペットはご機嫌ななめ
ペットの事情 1
水木優。19歳。職業、ペット。
つい数ヶ月前まで高校生だったあたしは、まさか卒業したらペットになるなんて、思いも寄らなかったんだけど。
人生、何が起こるかわからないものである。
内定をもらっていた会社が倒産したのは、卒業間近の2月だった。
途方に暮れたあたしは、派遣会社の面接に出向いた。
もちろん、普通に事務か何かの仕事をするつもりで。
だけど、資格無し、特技無し、経験無しで、おまけにパソコンのキーボードに触ったこともないようなあたしの履歴書を見て、コーディネーターのお姉さんは、ため息をついて言った。
「悪いけど、事務の仕事は紹介できないわ」
トホホ…。
なんとなく予想はしていたものの、がっくりと肩を落とす。そんなあたしを値踏みするかのように見ていたお姉さんが、ふいに、不思議なことを言い始める。
「あなた…可愛いわね。お目目ぱっちりだし、肌も白くて柔らかそう。ふわふわした髪も、あなたの雰囲気によく似合ってる。華奢だし、小柄だし…うん、間違いなく売れっ子になるわ」
はぁっ?
何?なんの話?…売れっ子?
ぽかんとしているあたしに、にっこり微笑みかけるお姉さんが口にした衝撃的な一言は。
「あなた、ペットに登録してみない?」「…ペット、ですか?」
聞き違いかと、思わず確認すると。
あたしの動揺を見透かしたお姉さんが、あたしを安心させるかのように、更に優しい笑顔を向けてくる。
「自分好みの女の子を傍に置いておきたいとおっしゃるお客様が大勢いらっしゃるの。で、ウチでも1年前から職種に加えたのよ。会員の方は、調査をクリアした立派な方ばかりだから、安心して。ペットの衣食住は、お客様の負担だから、身一つで行けばいいし。それに、家政婦じゃなくペットとして暮らすんだから、家事や、その方のお世話をする必要もないの。どう?できそうでしょ?」
「はぁ…」
イマイチ、理解できない。
第一、ペットが職業として存在するなんて、初めて知った…。
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