tone
『良かった……。


また、歌音を……。』


見れば奏ちゃんの肩は小刻みに震えてた。


目を覚まさないあたしを、

奏ちゃんはどんな気持ちで見守ってたのだろう?

そう思うと、あたしは奏ちゃんをギュゥと抱き締め返すしかなかった。


『ごめん。


俺があんな曲を聞かせたから。』


『違うよ。

あたしは良かったよ。

だって少し記憶が戻ったから。』


『ホント?』


『うん。


雨の中、奏ちゃんが……んッ……!!!』



気がつけば、また奏ちゃんはあたしに不意討ちキスをお見舞いした。


甘く、とろけるようなキス。


あたしはただ、そのキスに酔いしれてた。



少しして、奏ちゃんが唇を離すと、


『そんな事、思い出さなくても良かったのに。』


と俯いて言った。


『何で?』

『だって俺のせいで歌音に嫌な想いさせたし……。』


『それがあるからこそ、今のあたし達があるんだから。


あたしは別に嫌じゃないよ。』


あんな事、奏ちゃんがいないことに比べたら全然まし。


今、奏ちゃんがいなくなったらあたしは多分泣き叫ぶと思うし。


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