キヨツカ駅改札口にて
10の改札口
キヨツカ駅は、下町にあります。
都会の喧騒を少し離れたここは、地元の人々が利用する小さなこじんまりとした駅です。
「こんにちは、お姉さん」
「今日もいつもの切符買ってくれないかね」
常連さんばかりなので、こんな会話が常に交わされています。
配属されて1ヶ月が経ちましたが、ようやくわたしも、顔を覚えてもらえるようになりました。
そんなお客様の中に、車椅子の方がいらっしゃいます。
いつも笑顔で凛と前を向いていらっしゃって、それでいて、柔らかい雰囲気の方です。
「こんにちは、今日もホームまでお願いします」
「はい」
わたしは改札前の係員なので、持ち場を離れることは出来ません。
改札窓口の駅員さんに、その旨をお伝えするのが、わたしのお仕事です。
「ソエジマさんがいらっしゃっいました」
「おうよ」
窓口から出てきた駅員さんが、手際よくエスカレーターまでお客様を連れていきます。
「お姉さんも頑張ってくださいね、いつもありがとうございます」
すれ違い様にそう言われて、はい、と笑顔で応えました。
もっともっと、人も駅も、優しく利用しやすくなったなら。
もっともっと、たくさんの様々な方の世界が、広がっていくのではないでしょうか。
「……頑張ろう」
出来ることにはどうしても限りがあります。
それならばわたしは、ここでわたしが出来ることを。
「お気を付けて」
だからこそわたしは、笑顔でここに立つのです。