キヨツカ駅改札口にて

4の改札口






大失敗をしてしまいました。
お客様は大変ご立腹で、わたしに向かって散々文句を連ねてから、そのまま帰ってしまわれました。


「……すみません」
「いいっていいって、まだ始めだからな」


実害はなかったものの、怒らせてしまったのはわたしです。
申し訳なくてうなだれていれば、駅員のシバタさんがそう言ってから駅員室に手招きをしました。
キヨツカ駅は、わたし以外皆、年配のおじ様方ばかりです。


「なんですか?」
「暑いから、中入りな。今はお客さんもいないしね」
「でも……」
「いいから、ほら、サワダさんも入りなさい」


いつの間にかいた駅長さんまでもがそう言うので、落ち込んだままに、駅員室へと入りました。


「アイス食べな」
「買ってきたばっかりだから美味いぞ」
「それは関係ないだろ」
「あ、そうか」
「お茶もあるから飲みなよ」
「暑いからなあ」


皆、口々にそう言っては、アイスやらお茶やらを笑顔で渡してくださいます。


「……いただきます」


少し気持ちが軽くなって、しゃり、と齧ったアイスは、ひんやりとしていました。
出していただいたものも一通り食べ終わって、さあ、頑張ろうと駅員室を出ようとしたとき。


「少しは気分転換になったか?」


改札口に座るシバタさんが、そう言って笑いました。


「……はい!」


ほんの少しの気遣いが、とても嬉しいと感じたそんな日。

キヨツカ駅で働くわたしは、本日も、たくさんの人々に感謝して、ここに立っているのです。





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