キヨツカ駅改札口にて

8の改札口






未だ蝉の声が耳を打つ駅改札口は、夏休みの人たちで賑わいを見せています。
そんな中でも、太陽が中天を過ぎた昼下がりは、多少なりとも落ち着くものです。


「あっついなあ」


掃除もしてしまったし、お客様もいない。
あまり忙しい駅ではないので、ときどきこうして、暇を持て余す時間が出来てしまいます。


「お姉さん、今いいかな?」
「あ、はい。どうなさいましたか?」


ふう、と一息ついたなら、サラリーマンのお客様が来られました。
特急券売機前で、タッチパネルさえ触れずに悩んでおられる様子です。


「わたしが操作しますよ」
「いやね、お盆に鈍行で田舎まで行ってみようかと思うんだけど、そんな切符ある?」
「でしたら、こちらは如何ですか?普通列車は期限内でしたら五回ほど乗り放題なんです」


ピピッとようやく慣れてきた手つきで、タッチパネルを操作します。
出てきた切符の説明をしてさしあげたなら、お客様は、たいそう喜んでおられました。


「乗り換えとかって、難しいのかな」
「ご希望の駅まででしたら、この線でここまで行って、この時間でここ行きの鈍行に乗って……」


まだまだ難しい時刻表を駆使するわたしの額には、薄らと汗が浮かびます。
お客様も暑いのでしょう。
ハンカチでぱたぱたと扇ぎながら、ときどき、わたしにまでそうしてくださいます。

約30分後。


「ここで……これに乗って……着きました!」
「おお、着いたね!行けるね!」
「行けます!メモお渡ししますね!」


思わず張り上げた声は、蝉にも負けないものでした。


「ありがとう、助かったよ!お姉さん、親切だなあ」
「そんな!この駅は時間もあります。また、何かありましたら」


お買い上げいただいた切符とメモを渡したなら、お客様と目が合いました。

にっこりと、嬉しそうにわたしを見ています。


「お気をつけて」
「ありがとう!」


もうすぐお盆休みです。

あのお客様の鈍行に乗ったときの笑顔を思い浮かべて、わたしまで、なんだか嬉しい気持ちになりました。





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