星の降る線路の上で
「そんなにここにいるのが嫌なら帰ればいいだろ!誰がいて欲しいって言った?」
湧きある怒りに任せて声を荒げると、もうたくさんだ…と言わんばかりに激しい感情をぶつけた。
「静かに待ってられないんだったら、さっさと帰れ!」
少女は驚いたように目を見開くと、小さく擦れた声でぽつりと呟いた。
「いや…帰りたくない、絶対に…」
負けずに言い返してくるのものだと構えていた三崎は、想定外の少女の行動に戸惑う。
―少し言い過ぎたか…
三崎はゆっくりと隣のベンチに目をやった。
少女は寂しげに瞳を落とすと、ただ黙って両膝の上で握った拳を見つめていた。
あともう一度、心に衝撃が加わるとその拳に涙が落ちそうな空気だった。
成り行きと言え、彼女を傷つけてしまった罪悪感が胸を締め付ける。
―何とかしなければ…
涙を見せる女性ほど強い存在はいない…それがいかなる年代であっても。
三崎は急いで少女にかけるべく言葉を探したが、気ばかり焦って上手く見つける事が出来なかった。
 素直に謝る…の選択肢もあったが、それは最後の最後まで使いたくなかった。その謝罪は安易で的を射ていないような気がするし、彼女自身がそれを望んでいないように思えたから…
そんな三崎をせかすように、少女の瞳が涙でいっぱいになる。
焦燥感に追い詰められた三崎は、とっさに見切り発車の選択をした。
「あのさ…」
「そうよ!」
三崎の声を掻き消すように少女が声を上げた。
「きっとそうよ!」
少女は力強く頷くと、隣で口を開けたままの三崎の事などまるで眼中にないように、自分自身に言い聞かせる。
「待ってるのよ…」
「へっ?」
「あたし達が来るのを待ってるの」
「だから…何が?」
何かに取り付かれたように繰り返されるその言葉が、誰に向かって発しているのかわからなくなった三崎は、それを確かめるために少女の瞳を覗き込む。
視界に飛び込んできた三崎を真っ直ぐに見つめると、少女はどこまでも真剣な眼差しで、当然と言うように言い放った。
「電車に決まっているじゃない!」
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