星の降る線路の上で
「ちょ、ちょっと待てよ…電車が来たらどうするんだよ?」
「その時はあたしの考えが間違っていた事が証明されるだけよ!」
少女は毅然と言い放つと、自らの信じる道を力強く歩き続けた。
「確かにその通りだけど…」
遠ざかっていく少女の後ろ姿を眺めながら、三崎は小さく呟く。
「何考えてるんだ…いったい」
三崎はゆっくりと、ホームの先から線路を見下ろした。
線路までの高さは僅か一メートル…三崎が一歩を踏み出して重力に身を任せれば、あっという間にそこに行ける。
―でも…
その小さな一歩は、非日常への大きな一歩…そこに足を踏み入れる事は、今までに信じてきた常識、概念を全て捨ててしまう事になるような気がした…
―出来るわけがない…
立ち尽くす三崎の耳に、ふと少女の言葉が蘇る。
―あたしは自分の足で、答えを見つけに行く…
直接心に響き渡るような少女の声に、三崎は大きく息を吸い込むと深く眼を閉じる…
考えれば考える程、彼女の言い放った一言が、この世の中で一番確かなもののように思えた…
「どうかしてるよ…まったく」
 二度、三度小さく首を振ると…三崎は観念したように小さな笑みを零すと、ホームから数歩下がる。
そして、ベンチにある自らのリュックサックを掴むと…ダッシュと共に勢いよくホームの先から跳躍した。
まるでスローモーションのように三崎の体は宙に舞い、長い滞空時間を経てゆっくりと線路に降り立った。
靴の底に感じる地面の感触を確かめると、線路の先に視線を向ける。
次に取る行動は簡単だった…
三崎は線路の先を遠ざかっていく少女の背中に照準を合わせると、躊躇う事無く駈け出していた、 
走り出してすぐに、ベンチに忘れてきた時刻表の事を思い出したが、取りに戻ろうとは思わなかった。
三崎は今までの旅の相棒に別れを告げると、新しい相棒を目指し走る速度を上げた。




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