星の降る線路の上で
ゆっくりと線路を歩く三崎は、周囲の風景をぼんやりと眺めながら、時折思い出したように赤いリュックの持ち主を観察していた。
背中に向けられている視線など気づくそぶりも見せずに、璃子は少し前に流行った歌を口ずさんでいる。
突然に現れた謎の少女…璃子はいったい、自分を何処に導こうといしているのだろう…
迷いのかけらも無い、澄みきった彼女の目には、本当に全てが見えているのだろうか…
「なあ…」
三崎はなるべく平然を装い声をかけた。
「何?」
「さっきの自動販売機の事なんだけど…」
少し躊躇気味にそう切り出すと、思い切って核心をついた。
「その…お前には、俺が次に『当たり』の順番だって事を…」
「わかってたわ」
質問を遮るように少女は淡々とそう答えた。
そんなくだらない質問のために歌を中断させたの?そう抗議する少女の背中に、三崎は次の言葉が見つからなくなってしまう。
三崎の動揺を察したように璃子が振り向くと、追い打ちをかけるように問い詰めた。
「あなたが『当たり』になる事、あたしには事前にわかっていた。それで?」
「い、いや…ずっと気になっていたから」
「難しい事じゃないわ、ちっとも」
「そう簡単に出来る人間も、そういないと思うけど…」
「いずれわかるわ。あたしの言っている事の意味が」
璃子は不敵に微笑むと、再び三崎に背を向け歩き出す。
「じゃあ、電車が待ってるって言うのも、お前には見えているのか?」
少女は面倒くさそうに足を止め振り返ると、少し怒ったような眼差しで三崎に詰め寄る。
「そう思ったから、あたしを追っかけて来たんでしょ?」
「それは…」
「大丈夫よ。道は一本しか無いんだから。間違っても迷子になる事はないわ」
少女は胸を張ってそう言うと、小さな子供を安心させるように笑って見せた。
その笑顔に、不思議と三崎の心も穏やかになる。
「それも…そうだな」
「そうそう、何でも難しく考えるのは大人の悪い癖よ。シンジも大昔は子供だったんだから、その時の自分を思い出しなさい」
「大昔…って」
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