星の降る線路の上で
三崎はさりげなく隣のベンチに目をやると、新たな電車の待ち人を観察した。
待ち人はその視線に気づくふうもなく、足をぶらぶらさせながら、涼しげな顔でジュースの缶を口につけている。
三崎は自らが手にしている缶を訝しげに見ながら、思考を巡らせていた。
五十分の一…子供の頃に聞いた記憶に間違いが無ければ、自動販売機の『当たり』の出る確率は、確かそれくらいだったはず。
―でも…
隣に座っている少女は、三崎が次に『当たり』を引き当てるのを知っていた…
いや、ひょっとすると、彼女自身が何らかの方法で『当たり』にしたのかもしれない…
―だとしたら…
この少女は超能力とか予知能力と呼ばれている、何か不思議な力を持っているのだろうか…
―それともただの偶然…?
考える程に謎は深まる…だた一つだけはっきりしている事は、その答えを持っているのは三崎では無く、隣にいる少女であった。
三崎は意を決すると大きく息を吸い込み、そのままの勢いで口を開いた。
「あ、あのさ…」
「お兄ちゃん、一人?」
うわずった三崎の声を遮るように、唐突に少女が質問していた。
「そ、そうだけど…」
「どこから来たの?」
「東京…だけど」
「ふーん…」
その二つの情報に納得したのか…少女は前を向いて沈黙する。
少しの間、三崎は続きの言葉を待っていたが、少女が口を開く気配が無かったので手にしている缶を口につけた。
冷たくて微かに甘い酸味が喉に心地よい潤いを与えたその時…少女が突然に声を上げた。
「捨てられたんだ、女に!」
絶妙なタイミングであった…突き刺すような少女の言葉に、強烈に刺激的な酸味が喉元を逆流する。
それが計算だったかどうかはわからないが効果は絶大で、三崎は涙が出るくらいむせ返ると、何度か大きく咳き込んだ。
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