星の降る線路の上で
「ち、番う…」
必死に否定するものの、取り乱したその声と仕草には微塵の説得力も感じられない。
「隠さなくていいの…背中に書いてあったわよ。さっき、ちゃんと見えたんだから…」
目の前の事実を淡々と述べるような少女の口調に、三崎は思わず自らの背中を覗き込みそうになる。
慌てて背中から視線を戻すと、三崎は少女の瞳にその答えを求めた。
「あたしには見えるの…」
そんな三崎の心を見透かしているように、少女は透き通った瞳で答えを告げた。
抑揚の無い落ち着き払った声に、背筋が凍りつく程の畏怖の念が湧きあがる。
―本当に見えている…?
緊張に息を呑み見つめる三崎に、それまでの真剣な表情を解くと、不意に向日葵のような笑顔を浮かべた。
「だって、こんな何もない所に一人で来るなんて、傷心旅行以外考えられないじゃない」
そう言って無邪気におどけてみせる少女に胸を撫で下ろす…と同時に、言いようのない怒りが込み上げてきた。
自分よりも一回りも下であろう少女に、完全に主導権を握られ翻弄している自身への怒りでもあった。
「そ、そっちだって一人じゃないか!」
三崎は激しい感情を解放すると、少女に指を突きつけながら喚いた。
「学校はどうした?まだ夏休みじゃないだろ。サボって家出でもしてきたんじゃないのか!」
「そのとおりよ」
「へ…?」
「あたしはこんな小さな町を出て、もっと大きな世界で生きていくの」
肩透かしを食らったままの三崎を置き去りにして、少女は堂々と宣言した。
「そんなちっぽけな用意で…?」
体制を立て直した三崎が、赤色の小さなリュックを嘲笑混じりで指差す。
「アフリカのジャングルを探検しに行くんじゃないんだから、これでいいの!」
見下ろすような大人の視線に口を尖らせると、少女は鋭く三崎を睨みつける。
三崎も負けていない…相手が一回以上年下である事も忘れ、張り合うように冷ややかな視線で少女を睨み返す。
先月二十七歳を迎えたばかりの三崎にとって、いささか年齢に相応しくない行為にも思えたが…
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