戦国遊戯
玲子の服には、血がべっとりとついていた。柿崎をにらみつける玲子の顔は、まるで、夜叉のようだった。

柿崎と何度も斬りあい、刃を交える。そのたびに、大きな金属の音と、火花が散った。太刀筋は、若干でたらめではあるが、しかし。柿崎に勝るとも劣らない。いや、もしかすれば、小回りがきいている分、玲子の方が有利かもしれない。そのくらい、玲子と柿崎の戦いは接戦したものだった。

だが、玲子の表情は冷たい。
醜く歪んで、笑っていた。


わしの知っている、玲子ではない。


何があったのかわからない。だが、今、目の前にいるのは。一緒に酒を飲んで酔っ払った、人を斬る事を躊躇っていた、あの玲子ではなかった。

そのとき、馬の走ってくる蹄の音が聞こえた。

―-―-―-後ろか!

振り向きざまに、剣を抜き、斬り払った。

「やりますね、さすが、我が宿敵」

美しい顔立ちをした人物が、信玄の方に槍を突き刺してきた。何とか突いてきた方向を変えることができはしたものの、交わしきれず、信玄は肩に傷を負った。

「謙信!お主か!」

ぴりぴりとした雰囲気が、その場を支配した。
謙信の一太刀を交わすと、信玄を守るようにして、周りに兵達が集まってきた。謙信は笑いながら、馬を止めた。


「くっ…誰か、玲子を!玲子を止めるんじゃ!」


謙信も到着してしまった。主戦力の半分を別働隊に振り分けている。このままではこちらが危ない。

何より。

このまま、あの子を戦わせてはいけない。


そう思ったのだ。
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