戦国遊戯
仕方がない、と、携帯をバッグに戻し、馬に乗って、本陣へと戻った。

「玲子!どこに行ってたんだ!」

幸村に怒鳴られて、びくっとする。

「ご、ごめんなさい」

玲子が馬に、1人の男を乗せているのに気づいたのか、視線がそっちに移った。

「…この人は?」

「あの…柿崎を、本陣に連れて行こうとしていてくれた人」

幸村は眉を顰めた。

「私が、柿崎を殺さなかったから。だから、だから…!」

泣いてはいけない。泣いて、死んだ人が戻ってくるわけじゃない。自分の罪が、許されるわけじゃない。

「玲子。詳しく話を聞かせてくれ」


柿崎を捕らえたこと。捉えた後、別の兵に本陣へ連れて行くようお願いをして、自分は先に進んだこと。本陣に戻る途中で、この人に再会して、襲撃を受けたことを聞いたということ、そして、そのときに、柿崎に逃げられたということ。


全てを話した。

「私が、柿崎を殺していれば。あのとき、捕まえたりするんじゃなくって、ちゃんと、あの場で殺していれば。こんなことにならなかった」

顔が歪む。悔しくてたまらなかった。

「私が、人を殺すことが怖くて、逃げたから。殺すことを躊躇ったから。だから。だから…!」

「玲子!」

幸村に名前を呼ばれて、びくっとなる。幸村が、じっとこっちを見ていた。

「玲子。何も、間違ったことをしたわけじゃない」

幸村の顔がまともに見れず、目をそらす。

「お館様だって言っていただろう。殺さなくていいなら、殺さなくていいって。今回は、たまたま襲撃にあってしまっただけだ。玲子のせいじゃない」

「だけど!私があの時殺してさえいれば!」

そうだ。私が、あの時、殺してさえいれば―――・・・

「玲子様!」

呼ばれて振り返ると、そこには、負傷した兵士達が数名いた。
< 110 / 347 >

この作品をシェア

pagetop