戦国遊戯
「あなたが信玄にとって、大切な存在であるってことがわかったから」

「は?」

「それに」

ギロリ、とにらみつけるようなまなざしを向ける。

「お主、一体何者じゃ?」

蛇ににらまれた蛙のように、身動きが取れなくなっていた。

「柿崎と対等にやりあっただけでも、たいしたものじゃが、なぜ、信玄が攻め入る前に、どのような陣形で攻めるのか、知っておったのだ?」

なぜ、そのことを知っているのかと、眉をひそめる。

「それに、お主。先の戦では、上杉軍本陣に到達する前にひきかえしておる。なぜじゃ」

鋭くにらみつけられ、まるで金縛りにあったような感覚に陥った。

「それ…は…」

うまく声が出ない。喉がカラカラに渇いて、へばりつくような感覚だ。

「うん?」

にやっと笑った謙信の顔は妖しく、美しかった。しかし、その裏に隠れている、黒いものが見えた気がして、血の気が引く思いだった。

「おい、謙信。なぁにそんなに威嚇してんだ?」

声のした方を向く。謙信が、ちっとしたうちをした。

「え?慶次さん!?」

「よう、玲子。久しぶりだな」

二カッとさわやかに笑う慶次の姿に、少し頭が混乱した。

「慶次、邪魔をする気か?お主を招いた覚えはない」

慶次をにらみつける。が、慶次はまったく気にした様子はない。

「おぉ、招かれた覚えはねぇぜ?ただよ、川中島での戦を見物しに行った帰りに、見知った顔が、おめぇさんとこのに連れ去られてるように見えてよ。んで、今日は来たってわけだ」

「ふん、で?そうだとして、お主はどうするつもりなんじゃ?」

聞かれて、うーん、と、慶次はうなった。

「どうもこうもしねぇよ?おれぁ人のことにとやかく口を出すのは好きじゃねぇんでな」

「…であろうな。そういうお主が気に入っておるのだ。邪魔するでない」

ぴしゃり、と言われて、慶次はただ、はいはい、とだけ答えた。
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