戦国遊戯
中に入ると、城門から城の入り口まで、結構な距離があった。緊張も手伝って、体力の消費が半端ない。

「すまぬ、こちらの客人の馬を」

藤吉郎が、そばにいた男の子を呼んで、玲子と慶次の馬を預けた。小さいながらもしっかりとしていて、1人で2頭の馬をきちんとひいていった。

「さて。どうする?殿に挨拶していくか?」

「起きてるのか?」

「ああ。たぶんな」

本来ならば、泊めてもらうのだから、主である信長に挨拶をするのが筋だが、怖くて挨拶をしたいという気が起こらない。

「玲子、一応、俺は顔を出してくるが、一緒に来るか?」

断りたい、とっても。できれば嫌だと言ってしまいたい。
が。

「うん、泊めてもらうしね。挨拶くらいはちゃんとしとかないと。人として」

自分が人であることが、今日ほど面倒だと思ったことはなかった。さっさと挨拶を軽く済まして、早く寝てしまい、明日は朝早くに出て行こう。そう、心に誓った。

「そうか、それでは案内しよう。こっちだ」

藤吉郎はそう言うと、2人を連れて、廊下を右へ左へと歩いていった。
いくつかの階段を上った。実際に、自分が今、何階にいるのか、わからなくなってきた。だいぶ、あがった。ということしか把握できていなかった。


エレベーターとエスカレーターを作った人は天才だね。


この時代にそんなものがもちろんあるはずもなく。ひぃひぃと、肩で息をしながら歩いていった。

しばらく歩き、階段をのぼったところで、藤吉郎が襖の前で膝をついた。

「殿。前田慶次と、その友人がきております。今宵、泊まるところがないらしく、つもる話もございますので、某の部屋に、両名を泊めようかと思っております」

「ふむ。あい、わかった。入れ」

「はっ」

藤吉郎が襖を開けた。中には人影が3つ。
威圧感のある、威厳のある顔をした人物。その傍らには、愛らしい女の子のような顔をした人物。それから、向かい合うような形で座っている人物がいた。
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