戦国遊戯
田中学。元の世界でのクラスメイトで、少し前に、行方不明になったと言われていた。学年で一番頭がよかった。ちょうど、行方不明になる前のテスト、そのときに、希美に抜かれ、初めてトップから落ちた。
そして。
それからしばらくして、学は、行方不明になった。

「青柳さんだけかい?」

「え?」

学の言う意味が、よくわからなかった。

「花嶋さんだよ。てっきり、青柳さんがいるってことは、彼女も一緒かと思ってたんだけどね」

にたっと笑う学。その姿に、思わず寒気がした。

「なんだ、知り合いか?」

信長に声をかけられて、はっと我にかえる。学はええ、と短く答えてうなづいた。

「ちょっとした、知り合いです。といっても、何度か顔をあわせたことがある、といった程度ですが、ね?青柳さん」

「………」

何も答えなかった。いや、言葉が出なかったのかも知れない。もとの世界で知っている田中学は、クラスでもどちらかといえばおとなしいタイプの人間だった。それに、あんな風に笑う人間でもなかった。少なくとも、寒気がするような、怖いと思う笑みを浮かべるような人物ではなかった。

「どうした、玲子。気分でも悪いか?」

慶次が声をかけてきた。ただ、頭を横に、ふるふるとふった。心配そうな顔をして覗き込んでくる慶次に、何とか笑顔で答える。

「大丈夫、ほんとに。ちょっとびっくりしただけだから」

そういうと、玲子は信長の方を向いて座りなおし、頭を下げた。

「すみません、少し気分が優れませんので、下がらせていただきます」

そう言って、すっと立ち上がり、部屋を後にした。

「お、おい!玲子!?」

慶次が慌てて頭を下げて後をおう。藤吉郎も、面食らったような顔をしている。

「猿。あの2人の後を追え」

「え?あぁ、はい」

信長に言われて、藤吉郎も後を追って、部屋を出て行った。


「さて、学、と言ったか」

信長が、学を鋭く睨みつける。

「話の続きだが、どうする?俺の元へくるか?」

聞かれて学はにっと笑って頷いた。

「えぇ、もちろん。あなたが取れなかった天下取りの手伝い、私がして差し上げましょう」

ふふふっと、学の笑い声が、小さく響いていた。
< 167 / 347 >

この作品をシェア

pagetop