戦国遊戯
***** 幸村's View *****

「玲子は今頃、どのあたりになるだろうか」

玲子を見送ってから、一睡もすることができなかった幸村は、屋敷の中をうろうろうろうろしていた。
夜が明けると同時に、幸村は信玄のもとへと急ぐ。玲子が政宗のところへ向かったことを知らせるためだ。


「玲子を奥州に向かわせただと!?」

信玄は、だん!と床に片足を踏みしめた。

「まさか、1人で行かせてはおるまいな!」

信玄がギロリと幸村を睨みつける。幸村は、もちろんといった表情で答えた。

「才蔵を共につけてあります。ですので、大丈夫ではないかと」

幸村の言葉に、信玄はふむ、と言葉を閉ざした。

「本当は、行かせたくはなかったのですが、あのままでは、玲子が1人で奥州に向かいそうだったもので」

幸村が言うと、信玄は深いため息をついた。

「確かに。玲子ならありうるな」

親指と人差し指で、信玄は顎を撫でた。

「出発したのが昨夜だとすれば、今日の夜には奥州には着く、か」

そう言うと、信玄はすっと座布団に座った。

「裏で糸を引いているのは、確かに織田の手の者なのだな?」

信玄に確認するように聞かれて、幸村は頷いた。

「玲子の話によれば、織田についた、田中学、という者が糸を引いているのではないか、と」

信玄は、よし、と小さく呟くと、立ち上がって、幸村に命令を下した。

「よいか、幸村。お主は今から、一足先に尾張に入り、奴らを陽動してまいれ。先にこちらが、そこまで動くとは、向こうも思うまいて」

ふふっと笑う信玄に、幸村は、ただ黙って頭を下げた。

「かしこまりまして」
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