戦国遊戯
「若、本当に行かれるのですか?」

さくらに聞かれて、幸村は出発の支度をしながら、無表情にあぁ、と小さく答えた。

「玲子がいつ帰ってくるかもわからないんですよ!?」

言われて、幸村の手が止まった。

「玲子には生きて帰ってくるようにと言ったのに、玲子が帰ってきたときに、若がいなかったらどう思うと思ってるんですか!」

ぷいっとさくらは幸村に背を向けた。小さな肩が少しだけ震えていた。

「さくら…」

幸村がさくらの肩に手を乗せると、さくらはその手を払った。

「私は、物心がついたときから、ずっと、若の傍におりました。だから、若のよいところも、悪いところも。全てわかっております」

叫ぶようにさくらが言った。

「若は、私のご主人様で、私はただの忍です!」

くるっと幸村の方に向き直り、力強い瞳で、幸村をキッと睨みつけながら言った。

「そう、今までずっと、自分に言い聞かせてたけど、もうこれ以上は我慢できない!私は、ずっと若のこと、お慕いしておりました!」

黒く、大きな瞳には、あふれんばかりの涙がたまっていた。突然の告白に、幸村は目を大きく見開いた。

「叶わぬ思いだと、重々承知しておりました。だから、言うつもりもなかった!ただ、陰ながらでも、若のためにこの身を捧げようと、それだけを思って今日まで生きておりました」

はぁはぁ、と息を切らしながら続けるさくらの言葉を、幸村はただ静かに聞いていた。
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