戦国遊戯
幸村はその店の中に入ると、男のテーブルに向かい合う形で座った。

「まぁまぁ。一杯どうです」

幸村は持っていたお酒を男に見せると、男はすまねーと言って、お猪口を差し出した。幸村はお猪口にあふれるくらい酒を注いだ。

「何かあったのかい?」

聞くと、男はぶわっと泣きながら話し始めた。

「おぅ兄ちゃん、聞いてくれよ!俺はな?あの信長様に仕えてるもんなんだがよ。少し前に、妙な男が現れやがってな。最近じゃあそいつのせいで、俺ぁ、信長様に会えなくなっちまったんだよ」

「妙な男?」

幸村が身を乗り出して聞いてみると、男はあぁ、と頷いた。

「それがよ、未来が予言できるとかぬかしててよ。でも、殿はすっかりそいつを信じ込んじまってるんだ」

だん!とお猪口をたたきつける。お酒があたりに飛び散った。

「なんだか俺はあいつがいけ好かなくってよ。どうにも気にいらねーんだ」

はぁ、とため息をつくと、机に突っ伏した。

「なんで、何年も仕えてきた俺より、あんなわけわかんねーやろーを殿は信じるんだよー!」

わめく男に、幸村はまぁまぁ、と、なだめながら聞いてみた。

「それで、その男はなんて名なんだい?」

男はふっと起き上がった。

「兄ちゃん、なんでそんなこと気にするんで?」

幸村は、内心ギクっとする。

「まぁまぁ、そんな細かいことは気にするなって」

そう言って、幸村はお猪口にお酒を注いだ。

「俺も噂で、その男らしき話を耳にしたもんでよ。同じやつかどうかと思っただけさ」

我ながら苦しいか?と思いつつも、相手の顔をじっと見つめた。

「なぁんだ、そんなことか。そいつぁ学って名だぜ」

へらへらと笑いながら、男は酒をあおった。

「なるほどね…」

幸村は呟くと、店の主にお金を少しばかり置いて、店を出て行った。
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