戦国遊戯
牢屋にでも入れられるかと思っていたが、連れて行かれたのは一人の男の元だった。

男の前に膝まづかされる。めがねの男に、無理やり頭を押さえつけられそうになるのを振り払うと、男は幸村の横腹に蹴りを入れ、頭を下げさせてきた。

「ぐっ!」

そんなに強いわけではなかったが、当たり所が悪く、鈍い痛みが走った。

「やめよ、学」

男に言われて、学は舌打ちをしつつも手を離す。

「信長様に感謝するんだな」

幸村は学をギロリとにらみつけた。


目の前の男が、あの、織田信長。


頭を上げると、想像以上の威圧感に、幸村は少しひるんだ。信長は、にやっと笑った。

「お主、名はなんと申す」

信長の問いかけに、幸村は一瞬悩んだ。もしかすると、自分の正体に気づいていないんじゃないか、と。

「聞いてどうするというんだ」

幸村が信長に言い放つと、信長は笑った。

「はっは!面白い。なぁに、お主の名を吐かせること等、造作も無いことよ。丸!」

側にいた小姓と思しき少年が、頭を下げて部屋を出て行った。信長が何をしようとしているのかがわからない以上、幸村は手も足も出すことができなった。

しばらくして、蘭丸が1人の女性を連れてきた。

「…!さくら!」

幸村は叫び、さくらの元へと駆け寄ろうとした。
が、周りにいた兵士達に取り押さえられ、さくらに近づくことができない。

「くっ…!貴様ら、さくらに何をした!」

死んだように虚ろな目をしたさくら。口がパクパクと、時々、動いてはいるが、声はまったくといっていいほど聞こえない。

「ふふ、何をって…決まっているじゃないですか。どこの誰だか、ちゃぁんと聞き出さないとね」

学は、幸村の髪をつかみ、ガッと頭を持ち上げた。

「強情でね、この子。どんな拷問にかけても、知らぬ存ぜぬの一点張りでさ」

はぁ、とため息をつく。

「宿にも、1人で泊まったって言い張っててね。女将が2人で泊まったって言ってたってのに。笑っちゃうよ」

ははっと学が笑った。
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