戦国遊戯
「あの男は信用ならん。少なくとも、あんなやつより、わしは玲子を信じるし、殿に仇なすようには見えん」

藤吉郎の言葉に、玲子は黙ってがしゃっがしゃっと腕を振り回した。

「何で私はこんなところにいるの!」

泣き叫びながら手首についている金具を、壁に打ち付ける。すれて赤くなり、じわっと血がにじみ出てきた。

「やめろ!玲子!」

藤吉郎が驚いて玲子を制止する。が、玲子は藤吉郎の制止も聞かずに、がんがんと壁に自分の手首についた金具をぶつけ続けた。

「おい、玲子!」

藤吉郎が玲子の腕を壁に押さえつけて止めた。

「はぁ…はぁ…」

玲子は思いつめたような表情で、肩で息をする。

「落ち着け、玲子!」

藤吉郎が玲子の目をじっと見つめて呼びかける。玲子の目の焦点が、じょじょに藤吉郎の目に合わさっていく。

「ここから出られるようにしてやるから、とにかく待ってろ」

いいな!と藤吉郎に強く言われて、玲子は思わず頷いた。

「血がでてるではないか」

藤吉郎は、自分の着物の袖をびりっと破ると、玲子の手首にまきつける。

「とにかく、おとなしくして居るのだ、よいな!」

藤吉郎はそう言うと、牢の出入り口のところへ駆け寄った。牢にかけられた鍵をカチャカチャといじっていると、がちんと音がして、鍵が外れた。

「必ず助けに戻る。信じて待っていろ」

そう言って、藤吉郎は牢を後にした。
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