戦国遊戯
玲子の言葉に、兵達は無言で顔を見合わせた。驚きともいえる表情を浮かべて。玲子はただ、じっと、言われたとおり大人しくしていた。

「…あなたはなぜ、捕まっているんです」

不思議でたまらない、といった表情で、1人が縄で手首を縛った。手の痣や、巻かれている布を見たせいか、心なし、緩く結んでくれたようだった。


痛くないや。


ふふっと笑みが漏れる。兵達は、怪訝そうな表情で、玲子を見やった。慌てて玲子は弁解した。

「ごめんなさい、優しいんだなと思って」

にっこりと微笑む玲子に、兵達は少しだけ、顔を赤らめた。が、すぐに顔は血の気が引いたかのように、真っ青になった。兵達の視線が、一点に集中した。

玲子はそっと、視線の先を追った。そこには、1人の人物が立っていた。

「信長…」

思わぬ人物の登場に、玲子はごくりと唾を飲み込んだ。


どうしてここに?



理由がわからずに、玲子はただじっと、信長を見つめた。すると、信長はふっと笑いかけてきた。

「無様だな」

玲子はため息をついた。一体何を言われるのかと思えば、そんなことかと、呆れた顔になる。

「それが何か?」

言い返す玲子に、信長はにぃっと笑った。玲子の眉が寄る。信長は、不意に玲子にくくりつけている縄を、兵から奪い取ると、そのままぐいっと引っ張って、牢を出て行く。

「ちょ、どこに行く気!?」

バランスを崩しそうになりながらも、小走りになりながら、玲子は信長のあとについていく。信長は何も言わず、ただ、玲子を連れて、地下牢を出た。
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