戦国遊戯
「お前に何がわかるって言うんだ!」

大声で学が叫んだ。玲子の耳には、学の声しか聞こえなくなっていた。

「小さな頃は、人より少しだけできるガキだった。そんな俺をみて、親は喜んでたよ。それがいつの間にか…」

学は歯をギリッと食いしばった。

「気がつけば、俺は常にトップでいなけりゃならなかったんだ。いつ、どんなときでもな。わかるか?このプレッシャーのキツさ。いつだってのほほんと過ごすことを許されてたお前らに、わかるわけねーんだ!」

一気に言い切ると、学は少しだけ荒くなった息を必死で押さえた。

「それが…あのとき」

学の顔がみるみるうちに苦痛に歪む。

「花嶋にトップの座を奪われた俺は、自分の存在意義も、居場所も失ったんだ。哀れむような顔で、俺を慰める両親。ひそひそと陰口を叩くクラスメイト。なにより、俺を蹴落としてトップに立った花嶋にいたっては、試験の結果より、噂話の検証をすることのほうが大事だとぬかした!」

吐き捨てるように学が言うと、玲子はため息をひとつついた。

「で?」

短く、でも怒りをあらわにして学に向かっていった。玲子のその一言に、学は顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。

「だから、お前なんかに俺の気持ちがわかるわけねーんだよ!わかってたまるか!」

学がそう言いきったとき、玲子は学の頬を手の甲で叩いた。
あたりにパンっと乾いた良い音が鳴り響いた。学は突然の出来事に、びっくりして体を硬直させた。

「わかるわけないじゃん」

冷たく言い放つと、玲子は深くため息をついた。

「私は私のしたいことをする。後で後悔なんてしたくないから、自分に正直に、素直に生きてきた。きっと、希美だってそうだと思う。そうやって過ごしてる人間を、田中くんは、斜めから見て、勝手に見下して、羨ましくって嫉妬して」

「俺だって!」

玲子の言葉を遮って、学が反論する。
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