戦国遊戯

「やりたいことくらいあったさ。でも…あいつらが悪いんだ。父さんも母さんも、勝手に自分の理想を押し付けて、自分達ができなかったことを、俺に無理やりさせようとするからいけないんだ！」

学の目から、一粒の涙がこぼれた。が、玲子の表情は氷のように冷たかった。

「いい加減にしたら？」

「なんだと!?」

ギロリと睨みつける学。が、玲子の冷たい表情に、一瞬ひるんだ。側で傍観していた信長も、2人のやり取りの意味はわからないまでも、玲子の冷酷な表情に魅入られたかのように、じっと、静かに見入っていた。

「周りの環境が悪い、人間が悪い。挙句、今度は両親のせい？笑わせないでよ」

はっと吐き捨てるように言う。

「ちやほやされて、いい気になってたくせに。それが、自分の思い通りにならないことがあったら周りのせい？今の自分を変えようともしなかったくせに、そうやって被害者ぶって」

「やめろ！」

大声で学がまた、叫んだ。その叫び声に、辺りが一瞬シン…と静まり返った。
学が頭を抱えてその場に崩れ落ちる。
戦っていた兵士達は向けていた武器を下げる。慶次や政宗も、何事かと2人の方を見た。

「嫌なことからは目をそらし、耳を塞いで！でも言うことはいっちょまえに俺は頑張った、よくやった？ふざけないでよ！」

玲子は学の胸座をぐいっとつかみあげる。学は虚ろな目で、玲子と目を合わせようとしない。そんな学の姿を哀れに思った。
そして。
こんな男の、くだらないわがままのために、無関係の人が殺され、そして、争わされているという現実を止められなかった自分の無力さに、腹が立った。

長い沈黙が、2人の間に流れた。

「もう、気がすんだでしょ？」

ふっと優しい声をかける。玲子の声が聞こえているのかいないのか。学は焦点の定まらない目でそっぽを向いたまま、ぶつぶつと何かを呟き続けている。

「私達は、ここにいちゃいけない人間なんだよ」

悲痛な面持ちで玲子が学に懇願した。つかんでいた手の力も弱まり、ずるっと手が離れた。玲子はただ、両手で顔を覆い、ポツリと呟いた。




「元の世界に…帰ろうよ」