戦国遊戯
生きていることが当たり前で、死は、非現実世界の出来事だと思っていた。テレビで殺人事件だの戦争だのが流れているのを見て、怖いな、と思っても、どこか、自分には関係のない話だと、自分の身の回りで、そんなことは起こらないと、そう、思っていた。

なんとなくで生きていくことができていた。食べるものにも、住む場所にも、着る物にも。何一つ不自由な思いをすることはなかった。

いや、こっちに来る前までは、いろいろと不満があった。

親が勉強しろとうるさい。勉強なんてしたくない。宿題なんてめんどくさい。
雑誌に載っている服が欲しい。バッグが欲しい。靴が欲しい。アクセサリーが欲しい。
遊ぶお金が欲しい。遊ぶ時間が欲しい。


今思えば、なんて幸せな不満だったんだろう。


用意された朝餉をしっかりと噛み締めながら思った。

朝起きると、母親が朝食を用意してくれている。それが当たり前で、よく考えてみれば、感謝した記憶なんてない。しかも時々、寝坊してしまって、食べずに学校へ行ったことだってある。


ひどい娘だな、私。ごめんね、お母さん。今までわがまま放題言って。ほんとに、ありがとうね。


心の中で、母親に感謝した。

食事を終えると、玲子と幸村は、幸村のリハビリがてらに、近くに散歩に出た。最近の日課だ。

「怪我の具合、だいぶ良くなってきたみたいね」

玲子が聞くと、幸村は笑って頷いた。

「玲子には心配をかけたな。本当にすまない」

言われて玲子は、慌てて首を横にふった。

「と、とんでもない!ゆっきーが庇ってくれたから、私はこうして生きてるんだもん」

そう言うと、玲子は幸村に笑って見せた。幸村も、その笑顔を見て微笑んだ。

今日を無事に過ごせたことを、生きて、明日を迎えられること。
当たり前だと思っていた、そんなことに幸せを感じていた。

玲子はそっと、幸村の手を握った。幸村も玲子の手をぎゅっと握り返した。
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