【短編集】現代版おとぎ話
人魚姫
私の想ってる人。
地元のいわゆる“暴走族”。
出会いは私が夜中の繁華街でナンパされたことに始まる。
塾帰りだった私は、次の日の早起きもあって近道にそこを通っていた。
それで掛けられた声。
必死に抵抗する私。
だけど、そんなの通じるわけがなくて。
「離してください!!!」
泣き声で叫んだ瞬間だった。
何を言っても反応しなかった相手が、突然手を離したの。
「え?」と驚いて顔を上げれば、
私と相手の間に立つ一つの身体。
金髪とたくさんのピアスが目立ったけど、大きな背中に安心したのを覚えてる。
「大丈夫か?」
「え?あ、はい!!」
掛けられた低い声。
一瞬反応が遅れたけど、慌てて「ありがとうございました」と付け足せば、
格好に似合わない優しい笑みが返ってきた。
「ここ危ねぇからさ、あんま一人で通っちゃだめだよ。」
「は、はい。」
「とりあえず、今日は送ってくけど。気をつけろよ。」
そこから続く他愛もない話。
その隙間に見せる、かわいい笑顔とか。
暖かい声音とか。
暴走族のくせして温厚な性格とか。
10分くらい、繁華街を抜けるまでの間だったけど。
好きになるまで、時間は掛からなかった。