【短編集】現代版おとぎ話
私は、もう一度彼に会いたかった。
けれど、なんど繁華街の入り口を覗いても見あたらなくて。
ナンパされたら助けにきてくれるかな、とか思ったけど、
そんな勇気はなかった。
だから、自分から彼のいる世界に飛び込もうと思ったの。
黒髪を捨てて、金髪を手に入れた。
塾を捨てて、自由な時間を手に入れた。
朝を捨てて、夜を手に入れた。
派手な化粧とか、目立つピアスとか、露出の多い服とか。
私の今までの性格も、生き方も、全てを捨てた。
目立つようになった私が、組に勧誘されたのはすぐのこと。
近所で一番大きいと言われるグループに入った。
入って、またすぐのことだった。
彼の属する、グループに出会ったのは。
「覚えていますか?」
私が柔らかく問いかければ、彼は目を見開いて固まった。
何も変わっていない彼。180度変わった私。
気づかれるわけもなくて。
「ごめんね。わからない。」
と寂しそうに笑われた。
だろうな。そうは思ったけど、胸がドクンと鳴った。
それでもいい。
それでも、貴方にこうして会えれば。
親の涙も、友達の心配も、人生も、すべて捨てても。
先回りしてすでに“自分”を消してしまったから。
もう、願うことはただ一つ。
貴方の傍にいられれば。