世界の灰色の部分
体育館での始業式は、別段何事もなく行われた。
校長が長々と話してる間も、校歌を歌ってる間も、新しく赴任してきた教師たちが挨拶してる間も、わたしはただボーっとして、さっさと時間が過ぎるのを待っていた。
だから、このときはまだ気付かなかった。

教室にもどり、席についた。
クラス内にはまだ話声が響いている中で、わたしは提出物の確認なんかをしていた。
そして、5分とたたないうちに、教室の前の扉が開いた。
ああ、教師が入ってきたかって、そう思って顔を上げた瞬間にわたしの心臓は止まりそうになった。
「はい、みんなー、席ついてー」
わたしは思わず目をそらした。
教師が入ってきたことで、まばらだった生徒たちが自分の席へつき、教室内が静まる。
「はい、えー、始業式でも紹介させてもらいましたが、今日から1年間、このクラスを担当させてもらいます、川上進一です。みなさん、よろしくね」
声を聞いて、それは確信へと変わる。
入ってきた彼は、昨晩キャバクラにやってきて、わたしがとなりに座っていた、あの男だった。
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