世界の灰色の部分
8年前。わたしはまだ小学生で、姉は今のわたしと同じくらいの年だった。
その日初めて、姉が家に結婚を考えて付き合っている人がいると、ひとりの男を連れてきた。
「こんにちは」
玄関でちょうどわたしと鉢合わせになり、姉と並んでいたそのひとは、優しそうに笑った。細身の姉と並んでいても、はっきりとそれがわかるくらいに、痩せた男の人だった。
年上の男の人に接するのに慣れていないわたしは、返事を返すことができず、黙って会釈だけをした。
「シバタさんっていうの。よろしくね」
わたしにそう彼を紹介した姉の顔は、とても幸せそうだった。

< 44 / 80 >

この作品をシェア

pagetop