世界の灰色の部分
シバタさんは姉と共に客間に通された。
そこで父と母と4人で話すようだった。
わたしはなんだか落ち着かなくて、何度もトイレに行くフリをして、客間の前を行ったり来たりしていたのを覚えている。
小一時間ほど経った頃、わたしもだいぶ気にならなくなって自室で本を読んでいたところで、父の怒鳴り声が耳に入った。驚いたわたしは、びくびくしながら客間の前の廊下まで行ってみた。
聞耳をたててわかったのは、シバタさんは深刻な病気を抱えているということ。
それが原因で就職にもつけず、もしかしたら死ぬ確率もあるということだった。
そして父はそれを聞いて、ふたりに別れろと激怒したようだった。
「なんで!?どうしてだめなの!?彼はしっかり治療に励んでるのよ!わたしだって頻繁に検査に行ってる!」
父の怒鳴り声にも驚いたが、そのあとの姉の声にはさらに驚いた。
今まで姉がそんなふうに声を荒げることは、今までなかったから。
でも、姉の主張は通らなかった。
「どうしたもこうしたもない、当たり前だろ!さぁ、今すぐ帰ってくれ。もう瑞穂に会うな」
さらに母もいう。
「瑞穂。申し訳ないけど、お父さんの言うとおりにしなさい」
「いやっ、ふざけないでよ!なんでそんなひどいこというの!?」
姉の声は、もうほとんど泣き声に近い状態だった。
「…大丈夫だよ」
最後に聞いたのは、誰よりも落ち着いたシバタさんの声。
それから、客間の襖が開いて、シバタさんが出てきた。わたしは思わず身を屈めたので、気付かれることはなかった。
シバタさんはそのまま玄関へ行き、家から出ていった。
「シバタさんっ、やだ、行かないで!ちょっと、離してよっ!!離してっ!!」
「だまれ!あの男のことはもう忘れるんだ」
「瑞穂っ。落ち着きなさい。お母さんだってほんとはこんなこと言いたくないけど仕方ないのよ」
それから姉の、言葉にならない、悲鳴のような泣き声が響いていた。
わたしは駆け込むようにして部屋にもどった。
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