世界の灰色の部分
それから3日間。ずっと姉は部屋に閉じ籠っていた。
わたしは心配でしょうがなかったが、父も母もやがて何もいわなかった。

久々に姉を見た3日後は、雪まじりの雨が降る、とても寒い日だった。
「姉さん…」
わたしが学校から帰ってきて家に入ろうとすると、わたしが手をかけるよりも先に玄関が開き、真っ白なロングコートを着た姉が、ちょうど家を出るところだった。
「夏実…」
姉はわたしを見ると、寂しそうな天使のように微笑んだ。
「どっか行くの?」
姉の手には、旅行用のボストンバックが握られていた。
「…そうね。どっか。たしかにどっかかな」
「もう、大丈夫?」
少し怪訝におもいながらも、わたしはそれくらいしか言葉が見付からなかった。
姉はわたしの質問には答えず、少し屈んで、そっとわたしの頬に触れた。
「夏実、あなたはちゃんとした形で、幸せになるのよ」
「?、あ、姉さん、傘っ」姉が傘もささずに行こうとしたので、わたしは自分がさしていたものを思わず差し出した。
姉は振り返り、それを受け取った。
「ありがとう」

そしてそれから姉はもう二度と、家に帰ってくることはなかった。
ああ、姉はかけおちしたのだ。そう気付くのに長い時間はかからなかった。
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