テディベアはしゃべらない
「ここだよ」

と、彼が立ち止まったのは、長屋の左から数えて三番目のドアでした。

たしか長屋の右半分を運動部が、左半分を文化系の部が使っていると聞いたことがあります。

左から三番目……そこはきっと、文化系の、なにかの部活の部屋。

「あの……」

と予定を繰り上げて、訊いていました。

「私に、なんの用なんですか?」

急に、このドアの向こうを見るのが、イヤというか……こわい……そう、怖い、ような、気がしたんです。

今も、自分はちゃんと、笑顔でいられているでしょうか?

些細な不安は、

「言ったろ?」

彼の、とても『できた』風な笑みに、払拭されました。

「君に、逢わせたいヤツがいる。君のために」

彼が、ドアを、開きました。

少し重そうな引き戸がスライドしていくと、徐々に、室内の光景が目に入ってきます。

いいえ。

その部屋の景色は、いっそ、私の目に飛び込んできました。
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