ざわめきのワルツ
「でも、弾かないとピアノが可哀相ね」

「え?」

突然そんな事を言い出すものだから、私は思わず洗い物の手を止めた。

「音も悪くなっちゃうしねぇ…」

「そんなものなの?」

「あら、ピアノだって人間と一緒よ。使わないと錆びちゃうもの」

「ふぅん」

「ピアニストでも募集しようかしら」

いいね、と言いながらも、私は肩をすくめてみせた。

どっちでもいいんでしょ、本当は。

そういう意味を込めて。


可南子さんはカシスソーダを片手に、量の多い髪をかき上げた。
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