【短編】運命の人
直樹さんは、第一印象で抱いたとおり誠実で、優しい人だった。
二人で会った帰りは、あたしを必ずアパートまで送り届けてくれて。
満員電車の中では、あたしが押しつぶされないようにしてくれたり。
気づけばあたしは、どんどん好きになってた。
だけど……。
あたしにも直樹さんにも、付き合っている人がいないことは自己申告で分かったけれど……。
あたしと直樹さんのあいだには、“付き合おう”というちゃんとした言葉も“好き”という言葉も出てこなかった。
いっそのこと、告白してしまおうか。
そうは思うけれど、これで“ごめんなさい”だったら、もう会えないかもしれない。
あたしはそれが怖くて、勇気が出なかった。