お嬢様重奏曲!R
 葵の部屋は女の子らしくぬいぐるみがたくさんあり、さすがはお金持ちと言うべきか、グランドピアノまでもが置いてあった。その代わりあるべきであろう物が無かったのだ。
「葵君、一つ聞いて良いかね?」
「はい。何ですか?」
「君の趣味に相当するものが見当たらないのだがね」
「ああ。それでしたら隠してありますよ。家族にも内緒にしていますから」
「なぜかね? 別に後ろめたい事をしているわけでもなかろう」
「きっと反対します。特にお父様は」
「ふむ。天童財閥の総帥にしては、随分と器が小さいようだな…おっと失礼。君の両親だった。失言を詫びよう」
「いえ。気にしないで下さい。それよりも、フフッ。御言さんってやっぱり変わった人なんですね? クラスのお友達も言っていました」
「なるほど。その君の友達には後で話し合う必要がありそうだな」
 どこか面白そうに笑う葵に対し、御言は無愛想に眼鏡の位置を直し頷いていた。
「さて。それでは本題に入ろうか」
「本題、ですか?」
 本気で首を傾げている葵を見て、御言は思わず頭を抱えそうになった。
「君はなぜ俺を招待したのか忘れたのかね?」
「……あっ! そうでした。お勉強でしたよね」
「思い出してくれてありがとう。それでは早速始めようか」
「はい。そうですね」
 ようやく試験勉強が始まったものの、葵も御言も成績は優秀で二人とも十位以内には入っているのだ。
 そのためか勉強がものすごい速さで、進んでいく。お互いに分からないところが無く、これでは一緒に勉強している意味が全く無かった。
 そう感じ取った葵はチラチラと正面にいる御言を、上目使いで盗み見ていた。
 その視線に御言も気付き、ペンを置こうとしたところでドアが静かに二回ほどノックされた。
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