お嬢様重奏曲!R
「えっと。この子が先程話した私の妹で…」
「天童渚で〜す。十四歳です。よろしくね? お兄ちゃん」
 葵の言葉を強引に引き継ぎ、渚が挨拶する。
「俺は御影御言。葵君のクラスメートだ。こちらこそよろしく」
「え? ……あなたが御言?」
 御言の名前を聞いて渚が、目を丸くさせた。
「こらっ渚。目上の方を呼び捨てにするなんて御言さんに失礼でしょ」
「俺なら構わんよ。最低限のマナーさえしてくれていればな。それに変わった名前なのは確かだからな」
「そんな事、ないけど。ふ〜ん。御言に葵、か」
 何を思ったのか渚は含み笑いを浮かべていた。
「あのお姉ちゃんが男の人を下の名前で呼ばせた上に、自分も下の名前で呼ぶなんて珍しいんじゃない?」
「な、何を言ってるのよ渚」
「みことって言うからてっきり女の子かと、思ってたけど。それで毎日お兄ちゃんの事ばかり話してたんだ。それもとっても楽しそうに」
「な、渚!」
 妹にからかわれ葵の顔はいつの間にか、真っ赤になっていた。
「ハハハ。ごめんなさい、お姉ちゃん」
 全く悪びれた感じを見せず、渚は御言を見た。
「それよりもお兄ちゃん。私の事も渚って呼んでね」
「了解した。渚君」
「…なんか固い感じもするけど。まぁいっか。それよりも一緒に遊ぼう? ね? 良いでしょ?」
「渚、御言さんはお勉強しにきたのよ」
 咎めようとする葵を御言は柔らかく制する。
「構わないよ。葵君。さて、では何をしようか」
「まずはチェスで勝負」
 渚は手際良くチェス盤とコマを用意した。
「手加減しないんだからね? こう見えて強いんだから」
「ほう? それは楽しみだな。お手柔らかに頼むよ」
 葵がどちらを応援すれば良いのか、分からずオロオロしながら二人のチェス勝負が始まった。
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